父島に全部賭けろ
片道24時間、週1便、乗船者800名。不便さが強制する「何もしない時間」が、他の観光地では得られない体験をくれる。二度訪れた父島の魅力を語ります。
目次
2025年8月、二度目の父島へ行ってきました。
小笠原諸島の中心となる島で、東京から南へ約1,000キロ。2022年に初めて行って、また行きたいと思い、今回2回目の訪問となりました。
ここからは、2回行っていなお「全部賭けろ」と言い切れるワケをつらつら書いていきます。
24時間かけて、たどり着く島
父島は東京都小笠原村にあります。よくニュースの天気予報で画面の右側にひょこっと出ているのを見たことがある人はいるはず。
この島には船でしか行けません。しかも片道約24時間の船旅です。
友人に話すと、毎回「は!? 嘘でしょ!? 飛行機ないの!?」と驚かれます。国内旅行で24時間かけるなんて、どう考えても非効率的に思えますよね。
しかも船は週1便のみ。2025年9月現在、土曜日に浜松町を出発して、帰ってくるのは翌週の木曜日。実質1週間は島にいることになります。
一度の便の乗船者は約800名。この人数が、島に滞在する観光客の上限です。
東京湾を過ぎて太平洋に出ると、Wi-Fiは圏外になります。やることがないので、船内を散策したり、デッキで海を眺めたり。普段なら「時間の無駄」と思ってしまう行為が、不思議と心地良くなります。
2025年9月現在、有料ですがスターリンクのWi-Fiが導入されています。私はこの旅では使いませんでした。
全部やったけど、浜辺でぼんやりするのが一番良かった
到着してからの数日、私はけっこうアクティブに過ごしました。昼はダイビングを体験し、実際に山へ入り戦跡ツアーにも行き、夜は満点の星空を見るためのスターツアー。最終日は初寝浦海岸まで山を下るプチ登山もしました。バカ疲れたし全身ビチャビチャになったけど、どれも楽しかったです。
せっかく24時間かけて来たんだから、全部やりたい。それは旅行者として自然な気持ちでしょう。
でも不思議なことに、全部やった上で一番記憶に残っているのは、大村海岸の夕方でした。
大村海岸は夕方になると山に日が陰って、一気に涼しくなります。浜辺には防波堤?の役割である岩が積まれておりそこで休憩していました。そこで聞こえてくるのは、波のさざめきだけです。
観光地によくある子どもの遊び声も、グループ旅行の賑やかな笑い声も、カップルの会話も聞こえません。
だいたい5分くらい経ったあと、波の音を聞いているだけで考えていたことが、どうでも良くなる瞬間がありました。
仕事のこととか、明日の予定とか、そういうものが頭から消えていったとき「これがいわゆる瞑想状態なのか?」だと思ってます。
この現象が禅とか瞑想とか、そういう言葉が正しいのかはわかりません。でも精神が統一されたような感覚がありました。今まで「自然の音」だと思っていたものが、実は「自然の音+人工音」のミックスだったことに、初めて気付いた瞬間です。

2回目の旅では、また「そういう場所」を見つけました。境浦海岸を少し南側に行くと、岸壁の影で日中日陰になる箇所があります。そこであぐらをかいて座っていると、波の音と鳥の鳴き声だけが聞こえてくる最高と言わざるを得ない場所があります。1回目の大村海岸と同じ感覚が、ここでも起きました。
なぜ父島でしか、これが起きないのか
正直、「何もしない時間が大事」なんてことは頭では分かっていますが、実際にはできません。
常にネット環境があって、やろうと思えば何でもできてしまう。沖縄のリゾートに行っても、スマートフォンはつながるし、ホテルにはWi-Fiがある。せっかくの休みだからと観光スポットを全部回って、有名な店に行って、写真を撮って、気がつくと日常よりもスケジュールがびっしり詰まっている。癒されに行ったはずなのに、帰ってきたらどっと疲れている。そんな経験は誰にでもあると思います。
父島では、それが物理的にできません。
24時間の船旅が、「移動は早いほうがよい」という前提をぶっ壊します。週1便だから、1週間いるしかないですし「もっと効率的に回ろう」なんてことはできません。乗船者800名が島の観光客の上限だから、ビーチに人がほとんどいない。ネットもギリギリつながりますが、ちょっと山に入ったら圏外の場所もあります。
この制約こそが、「考えていたことを手放す」環境を強制的に作ってくれます。
自分の意志で「何もしない」を選ぶのは難しいです。しかし父島では、選択肢が限られているから、自然とそうなります。
もし飛行場ができて3時間で行けるようになったら、この魅力は失われてしまうでしょう。そうなったとき、この不便さが失われてしまうと思うと、他の観光地と同じになってしまうので個人的には今のままでいてほしいです。
帰ってきて
父島に行く前の私は、何もしないことにソワソワしていました。電車の乗り換えは最短ルートで、移動中はYouTubeをバックグラウンド再生で、カフェでは必ず何かの作業をする。
1回目の旅の直後は、「変わった」と思いました。駅のホームで電車を待つとき、以前なら「早く来ないかな」とスマートフォンをいじっていたのが、ただ立っていることができるようになった。
でも正直に言うと、半年経った今、スマートフォンは見てます。変わらなかった部分のほうが多いかもしれない。現実はそんなに甘くないですね。
ただ、あの浜辺の5分間の感覚はたしかに残っています。目をつぶれば今でも再現できます。波の音と、涼しくなった空気と、考えていたことがどうでもよくなったあの感覚が蘇ってきます。
あの体験だけは初めてのことだったので、2回目も行ったし、なんなら3回目はいつ行こうかなと考えているくらいです。
始まりと終わりを告げる汽笛
おがさわら丸が浜松町を出発するときの汽笛1は、これから始まる旅への期待を胸に響かせてくれます。24時間後、父島に到着したときの汽笛は、まるで「最高の夏へようこそ」と迎えてくれているかのようです。
そして1週間後、帰りの汽笛が鳴ったとき、港にはたくさんの島民の方々が盛大なお見送りに来てくれます。聞こえてくるのは「さようなら」ではなく「いってらっしゃい」という言葉。また帰ってくる場所があるという安心感と、離れる寂しさが入り交じった、なんとも言えない気持ちになります。
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おわりに
父島に全部賭けろ。
24時間の船旅は面倒だし、1週間の休暇は重い。24万円もかかる。スマートフォンを手放せるかもわからない。帰ってきたら結局また元の生活に戻るかもしれない。
それでも、あの5分間のために賭ける価値はあります。
ぜひ騙されたと思って、一度行ってみてください。そして父島で会いましょう🏝️
参考
- 費用:たぶん24万円くらい(合計)
- 船・宿代:15万くらい(特二等寝台、ちょっとよいホテル宿泊)
- アクティビティ代:4万くらい
- スターツアー、戦跡ツアー(一日)、体験ダイビング(一日)
- 飯代:3万くらい
- 細かい費用(お茶、お菓子とか)とかも諸々込み
- その他:2万くらい(雑に計算しているのでここはブレあります)
おまけ
島で撮影した写真を乗せておきます。

有名な沈没船がある境浦海岸です、実際に沈没船の部分まで泳ぐこともできます。

今年の「答えを得た場所」です。境浦海岸を少し南側に行くと、岸壁の影で日中日陰になる箇所があります。

日陰であぐらをかけば、波の音と鳥の鳴き声で瞑想し、到達(?)できます。

島の東側にある初寝浦の展望台です。
下に見えるのは初寝浦海岸という、行くのが少し難しい海岸です。

前述した初寝浦海岸です、ここは市街地から5キロメートル離れた山の上にもあります。
ほとんど行く人はいない(はず)ですが、現地までは電動自転車で行き、200メートルくらいの山を下るプチ登山しました。
当たり前のようにバカ疲れたし全身ビチャビチャです。

昨年、答えを得た大村海岸の夕暮れ時です。
写真じゃ絶対伝わらないけど波のさざめきしか聞こえずとても癒やされる場所です。

島の東側にある旭平展望台です。原付きに乗っていた一人旅のお姉さんに、チャリでここまで来ているのを若干引かれました(多分自分が逆の立場ならひくと思う)。
記事のタイトルは CLINEに全部賭けろ から。
Footnotes
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船がどの方向に進もうとしているのか、あるいは停止しようとしているのかを他の船に知らせるために使用されます。 ↩